「なんでできないの?」「みんなできてるよ?」我が子に運動を教えようとするとき、つい口から出てしまうこの言葉。親としては良かれと思って言っているのに、なぜか子どもの顔が曇る……じつは、この言葉こそが子どもの「運動嫌い」を作り出している原因かもしれません。きそスポでは、これまで多くのお子様の指導を通じて、運動が苦手な子にある体験が共通してあると考えるようになりました。それは、「できない」という経験そのものよりも、「できないことを責められた」記憶が、運動嫌いの根っこになっている、ということでした。今回は、親が無意識にやってしまいがちなNGワードと、その代わりに使いたい声かけの言葉を紹介します。声かけの内容を少し変えるだけで、子どもの表情と取り組み姿勢は驚くほど変わってくることを実感してもらえるはずです。NG言葉① 「比べる言葉」が子どもの自信を奪う私たちは無意識にこんな言葉を言っていないだろうか「お兄ちゃんはすぐできたのに」「クラスのみんなはもうできてるよ」「〇〇ちゃんを見てごらん、上手でしょ」これらの言葉を聞いた瞬間、子どもの脳はどう反応するか。運動の上手下手ではなく、「自分はダメな存在だ」というメッセージとして受け取ってしまう。研究でも明らかになっている「比べる言葉」の悪影響これは感覚的な話ではなく、科学的にも裏付けられている。2025年に国際学術誌『Frontiers in Psychology』に掲載された研究(Liu et al., 2025)では、579名の中学生を対象に、親の比較行動が子どもの自己肯定感に与える影響が調査された※¹。結果はこうだ。親が子どもを「他の子」と比較する行動を受けた子どもは、自分でも周囲と自分を比べるようになり、「自分は劣っている」という感覚を強めていくという。この研究では「親による比較行動は推奨できない」と結論づけている。さらに注目したいのは「連鎖」だ。親に比べられた子どもは、自ら進んで周囲と自分を比べる思考パターンを身につけてしまう。つまり、親が比較をやめても、子ども自身の中に「誰かと比べる癖」が残ってしまうのだ。きょうだいや友達との比較は、親にとっては「お手本を示しているつもり」でも、子どもにとっては「自分は劣っている」という証拠に変わる。これが積み重なると、運動=恥ずかしい、怖い……という回路が子どもの中に出来上がっていく。一度できあがったこの回路はなかなか消えない。「運動が嫌い」な子の多くは、じつは運動そのものが嫌いなのではなく、「運動をすると誰かと比べられる」「恥をかくことになる」という経験を嫌っているのだ。NG言葉② 「焦らせる言葉」は子どもの「失敗を恐れる心」を植え付け、やる気を奪う「早くできるようにならないと体育で恥をかくよ」「もっとちゃんとやらないと」「いつになったらできるの?」こうした言葉は子どもに、失敗を恐れる心を植えつける。運動において失敗を恐れること、これは致命的だ。跳び箱を跳ぶとき、自転車に乗るとき、どこかでリスクを取らなければ体が前に進めない。失敗を怖がる子は、体が動く前に心がブレーキをかけてしまう。「えいっ」と踏み出せない子の多くは、勇気がないのではなく、失敗することへの恐怖が先に立ってしまっているとも言える。また「もっとちゃんとやらないと」という言葉は、何がどう「ちゃんと」なのかが子どもには伝わらない。ただ「自分はできていない」という事実だけが強調され、具体的にどう改善すればいいかがわからないまま、やる気だけが削られていく。研究でも明らかになっている「焦らせる言葉」の悪影響これも感覚的な話ではなく、データが裏付けている。2015年に国際学術誌『PLOS ONE』に掲載された研究(Almagro et al., 2015)では、10〜16歳の子ども321名とその保護者を対象に、親からのプレッシャーが子どものスポーツへの意欲にどう影響するかが調査された※²。ここでいう「プレッシャー」とは、「勝つこと」「絶えず向上すること」「もっと努力すること」「目標を達成すること」への圧力でもある。まさに日常の声かけそのものだ。調査による結果は明確だった。親からのプレッシャーは、子どもが感じる「自律性(自分で決めている感覚)」「有能感(自分はできるという感覚)」「関係性(温かく見守られているという安心感)」という3つの基本的な心理的欲求の充足度を低下させてしまう。さらにその結果として、スポーツへの内発的動機づけ(やりたいからやる気持ち)と楽しさが失われ、退屈さや無動機(やる気の喪失)が高まることも示された。またこの研究では、こうした状態が長期的にはスポーツからの離脱(ドロップアウト)につながるとも警鐘を鳴らしている。親にとっては励ましのつもりでも、「もっとやれ」「なぜできない」という言葉が子どもの内側で「運動はつまらないもの」「やりたくないもの」という回路を着実に作り上げる呪文になってしまうのである。子どもの自己肯定感を高めるために使いたい言葉。「プロセスを見る声かけ」とはNG言葉に共通するのは、「結果」や「他人」に目が向いていることだ。では、どんな言葉に変えればいいのか。きそスポの指導現場でも効果を感じている声かけを3つ紹介する。① 「前の試合のときより、ボールの扱い方がすごくスムーズになったね!」まず「以前の自分との比較」の言葉をかけてみる。他の誰でもなく、本人の変化を認める言葉だ。小さな進歩でも、それを見逃さずに言葉にすることで、子どもは「自分は少しずつ変わっている」という感覚を持てるようになる。この感覚の積み重ねが、運動への前向きな姿勢を育てるのだ。② 「一生懸命走っている姿を応援できて、お父さん(お母さん)はすごく楽しかったよ、いつでも応援しているからね」子どものパフォーマンスの良し悪しによって態度を変えるのではなく、「その活動に取り組んでいること自体」を肯定してみる。ここで大切なのは、「あなたの味方である」というサインを言葉と行動で伝え続けること。子どもにとって、その結果は「終わり」ではなく「途中」であることを伝えるのだ。③ 「今のプレー、自分ではどう感じた? 次はどうしてみたい?」子ども自身に考えさせる問いかけ。自分の体の感覚に意識を向けることで、主体的な改善への第一歩になる。もちろん、答えに詰まっても構わない。「うーん……」と考えること自体が、自分の動きを振り返る大切な時間になる。なにより自分で決めて実行できたというステップを踏ませることで、「自分で選んだ(自律性)」という感覚と「できた!(有能感)」という自信が同時に育まれる。声かけを変えることで、子どもの何が変わるのかきそスポの指導現場でも、この声かけの違いが子どもの表情と取り組み姿勢を劇的に変えることがある。結果を褒めるのではなく、過程を見ている言葉。比較ではなく、本人の変化を認める言葉。それだけで、最初は下を向いていた子が顔を上げ、「もう一回やってみる」と言い出す場面を、私たちは何度も目撃してきた。運動の上達は、技術の問題だけではない。「自分はできる」という感覚、「失敗しても大丈夫」という安心感。この土台があってはじめて、子どもの体は伸び伸びと動き出すのだ。「運動が苦手」なお子さんに対して今日から意識して声かけ3つ比べない ——他の誰かではなく、昨日の自分と比べる焦らせない ——できないことを急かすより、小さな変化を認める問いかける ——「なんでできないの?」より「どこが難しかった?」苦手は、伸びしろ。できないことは、まだやっていないことに過ぎない。親の言葉がその「伸びしろ」を育てる土壌になります。今日から少しだけ、お子さんへの声かけを変えてみませんか。きそスポでは、運動が苦手なお子様を対象に、動作分析による個別オンラインレッスンを提供しています。「できない」を「できた」に変える取り組みを、ぜひ一度体験してみてください。運動が苦手な子どものためのオンライン運動指導教室「きそスポ」とは▼こちらの記事もあわせてオススメやる気がない子どもの「やる気」を引き出す方法。子どもの脳の「やる気スイッチ」を押すための身体のセンサーとは宿題ができる子・できない子、その差は「やる気」じゃなかった ~子どもが毎日の習慣化を身につけるための、たったひとつのコツ~運動や勉強にも差がつく?子どもの視力と「視る力」の違い、ビジョントレーニング遊びが効果的な理由とは参考文献・資料※1 Liu H, et al. Parents’ social comparisons and adolescent self-esteem: the mediating effect of upward social comparison and the moderating influence of optimism. Frontiers in Psychology. 2025.論文をみる※2 Amado D, et al. Incidence of Parental Support and Pressure on Their Children’s Motivational Processes towards Sport Practice Regarding Gender. PLOS ONE. 2015. 論文を見る